JR横浜線・淵野辺駅南口から、「水郷・田名」行きバスに乗り、 「下田名」バス停で下車すると、田名八幡宮がある。 この神社の境内の左手奥には、三つの石があり、 これはこの中の1つ「ばんばあ石」と呼ばれる石にまつわる伝話です。
むかし、ひでり続きで田んぼや畑がかさかさになり、飲み水も干上がりそうになって、 田名の村の人たちが、たいへん困った時のことです。 村人たちは、八幡さまに集まって、雨乞いのお祈りをしましたが、雨が少しも降りません。 そんなある晩、一人の男の夢の中に、おばあさんがあらわれて、こう言いました。
「わしは、ばんばあ石だ。連れ合いのじんじい石が、相模川の下の方に流されたので、 後を追ってきたところが、一の釜の深みにはまってしまった。 すぐに水から上げて、八幡様に祀っておくれ。そして、じんじい石を見つけて、連れてきてくれれば、 まばたきする間もなく、雨をふらせてやろう」
いい終わると、おばあさんの姿はすーっと消え、男は目がさめました。 「こりゃあきっと神様のお告げだ」 そう信じた男が、一の釜へもぐると、ばんばあ石があったので、いわれたとおりにしました。
次にじんじい石をさがしにいくと、川下の方に、ずんぐりむっくりがまがえるのように、 うずくまっていたので、持って帰って、ばんばあ石とならべると、とたんに雷がとどろき、 ザアーッと雨がふってきて、しおれていた畑の野菜も何もかも、いっぺんに生き返ったようになりました。
それから何年かたちました。 またひでりがつづき、村人たちがこまりはてて、雨乞いのお祈りをすると、同じ男の夢の中に、 おばあさんがあらわれて、こういいました。
「わしを、一の釜に沈めるがよい。すぐに願いを聞きとどけてやろう」 話を聞いた村人たちが、ばんばあ石を一の釜にしずめると、本当にめぐみの雨がふりだしました。
それからというものは、雨乞いのたびにばんばあ石は、一の釜にしずめられましたが、その間、 じんじい石がさみしそうなので、村人たちは、もう一つ石を見つけてきて、となりにならべました。 つやつやとして形がよく、ばんばあ石のそばに置くと、まるで若いきれいな女の人のような石です。
やがて村人たちは、ばんばあ石を一の釜にしずめて雨がふると、 「ほれ、ばんばあ石がやきもちをやいて、なみだを流したぞ」 などというようになりました。 そんなことをいわれても、ばんばあ石は、だまって何べんでも雨をふらせ、 村人のためにつくしてきました。
そのうちにばんばあ石は、あっちこっちがかけたり、ひびが入ったりして、 とうとう針金でぐるぐるまきにされてしまいました。
―――― おしまい ――――
(かながわのむかしばなし50選)より
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