これは藤沢市の片瀬地域に伝わる昔話です。
むかしといっても、それほど古い話ではありません。 近所のおばあさんに聞いた話です。
おばあさんが、まだこどもの頃、片瀬山にはむじなが住んでいて、 夜になると村に下りてきたんだって。 夜中に戸を叩いて、誰か名を呼ぶ者がいるので、 「はーい」と返事をすると、 「雨が降ってきましたよー、干し物を入れなさいよ」って言われたんだって。
夜寝るときに、干し物を干しといた覚えもないのに、と思いながらも、 「おせわさまでーす!」ってとび起きて、おもてを見たら、 月夜で、星がかがやいていたんだって。
「まあ、ごらんなさいよっ、わたしゃむじなにだまされたよ」 って、いつか家へ来て笑いながら話していました。
―――― おわり ――――
『むじな』は、かながわでは『もじな』という場合も多く、 地方により動物の「あなぐま」とする説や、「たぬき」だとするところもあり、 むかしからきつねと同様人をばかすと言われてきました。
明治の作家で日本研究家でも知られる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の著書、 「怪談」にも、「のっぺらぼう」という妖怪にばけて、人々を脅かすむじなの話があります。
この頃はまだ、片瀬周辺にも、たくさん住んでいたのでしょうか。 いまでは、片瀬山もすっかり住宅地に変わり、こんな話も聞かれなくなりました。
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